神戸地方裁判所 昭和31年(ワ)1133号 判決 1963年12月12日
理由
一、原告の請求原因(一)(二)(三)記載の事実、即ち債務者である原告と債権者である被告松富及び訴外兵庫融資株式会社との間に極度額を元金一二〇万円とする金融取引を約し、将来発生すべき原告の右債務を担保するため、原告所有の別紙第一目録上欄一ないし九記載の不動産に対し元金一二〇万円を債権極度額とする根抵当権設定契約並びに代物弁済予約を締結し、昭和二五年一〇月一四日前者についてはその設定登記を、後者については所有権移転請求権保全の仮登記を経たこと、(省略)は当事者間に争いがない。
二、原告は、被告松富及び訴外兵庫融資と原告間になされた前記代物弁済予約は、その契約自体債務者である原告の窮迫無智に乗じ被告松富の暴利を図るものであるから、公序良俗に反し無効である旨主張するので先ずこの点について考察するに、右代物弁済の契約書である成立に争いのない乙第五号証によると、債務者において手形不渡又は借受金その他利息の支払を一ケ度にても遅滞したときは期限の利益を失い残存債務金額を一時に支払うべきこと、債務者(原告)において本債務の弁済を遅滞した場合は債権者(被告ら)の任意選択により本抵当権の実行に代えて本抵当物件の価格を本債務額と同額とみなし即時代物弁済として充当決済せられるも異議なきことを予約する旨の記載がある。従つて右契約文を形式的に解釈すると原告が主張するように最下限に近い債務でもその不履行があるときは債権者に予約完結権が発生しその一方的意思表示により本抵当物件全部を代物弁済として取得できることを定めたもののようにみうるけれども、右契約文に現れた当事者の意思を合理的に解釈すると、右代物弁済予約はその債務額が抵当権の債権極度額である元本一二〇万円に達しその履行を遅滞したとき若しくはそれ以下の場合でもその遅滞債務額と本件物件価格とを対比し、物件価格を債務額同額とみなすことが取引の通念に照らし妥当とみられるに至つたとき債権者に予約完結権が生ずる趣旨と解するのが相当である。そうだとすると右代物弁済予約が債権者の暴利を目的とした公序良俗違反の契約であるということはできない。(以下省略)